相談者は55才の会社員。都心のマンションにご家族4人でお住まいですが、借り上げ社宅のため家賃の2割を本人が負担しています。両親が高齢のため定期的に面倒を見に実家へ通っていることもあり、いずれ夫(相談者)が退職し、子供が独立したタイミングで実家の近くに終の棲家を構えたいと思っていましたが、今回、父親から実家の隣地が売りに出されたとの情報があり事態が急展開。父親が売主に直接交渉し、隣地ということで優先的に譲ってくれることになりました。相談者は、手狭な実家が帰省時に不便であること、また定年後も見据え、いっそのこと住宅も建ててしまいたいということで本件の相談となりました。ご相談のポイントは、現在、家族全員が都心でお勤めなので、住民票を移さずに住宅ローンを組むことができるのかということ、借り上げ社宅との関係、マイカーローンの影響、父親が土地代の半額を提供する意向の対応等、山盛りでした。
- 定年退職までの期間・最長借入可能期間と、借入可能金額・返済月額をシミュレーションしながら、年金開始年齢も考慮し、ライフスタイルに合った最適な借入方法を選択しましょう。
- 退職金は、完済原資にするだけでなく、できるだけ手元に残して老後の備えとし、少しずつ取り崩しながら返済を続けるという考え方もあります。
- 健康面での心配が出始める年代です。団信は加入できるものなら多少金利が上がっても、手厚い保障のものに加入する方が得策と言えます。
- 借入期間を20年以内にできるのであれば、フラット20を利用することで、フラット35より金利を低減できます。
50代・セカンドハウス向け住宅ローン
本件では、ご家族の住民票を移さずにマイホームを取得したいということでしたので、まずは「セカンドハウス」として住宅ローンを組むことになります。一般的な銀行ではセカンドハウス向けは住宅ローンの対象外となることが多いこと、対象となっても通常の住宅ローン金利よりも高いことが多いため、全期間固定金利で、フラット35より金利が低い【フラット20】の提案となりました。
ご相談者の状況
◗ 家族構成
夫 :55才・会社員(勤続11年)定年65才・70才までは雇用継続の見込み
妻 :52才・パート従業員(勤続2年)所得税の非課税範囲内で勤務
子供:長男 25才・長女 22才(2人共すでに就職)
◗ 年収
夫 :760万円(直近の源泉徴収票による金額)
妻 :103万円(現在は夫の扶養家族)
合計:863万円
◗ 貯蓄
(世帯合計)320万円 (手元現預金)
他に生保・持株会・積立NISAあり。
◗ 物件価格
土地1,100万円+建物3.200万円+諸経費220万円=4,520万円
※諸経費には土地部分の不動産業者に対する仲介手数料を含む。
◗ 備考
現在の住居は借り上げ社宅。都心部のマンション(家賃18万円)にご家族4人で居住中。家賃の本人負担は2割なので月3.6万円が自己負担金
- 家賃は給与天引きですが、年収金額には影響しません。但し、家賃の自己負担金額は「他の借入金」の返済と同様に返済比率に計上されます。
ご提案シミュレーション
▷ 適正借入額 4,000万円
・ご夫婦で収入合算:奥様が連帯債務者
・奥様はパート勤務ですが、フラット35は正社員でなくても収入合算が可能です。
・マイカーローンを残したままだと、フラット20では4,000万円の借入ができないことが分かりました。そこで、土地代の半分を出すと言って準備していた父の資金を、贈与を受ける形とし、マイカーローンの完済原資としました。これで、フラット20にて4,470万円までの借入が可能となりました。
・実際の借入は、所要資金4,520万円の9割以内に収めるため、フラット20の利用で4,000万円の借入としました。優遇金利も利用でき、24年返済よりも返済総額は300万円以上削減できます。
▷ ローンの種類 フラット20 (20年返済)
▷ 団信 新機構団信
3大疾病付き団信も考慮しましたが、すでに他の生命保険の契約もあるため、今回は一般的な団信の加入としました。
▷ 融資率 4,000万円/4,520万円=88.4%
・融資率が9割を超えると、融資金利がアップします。融資率は9割以内になるように借入額を調整しましょう。
・金利の例(全期間固定金利):適用金利は資金受取時の金利となります。
融資率9割以下:年1.50% < 融資率9割以上:年1.61% (2025年6月の例)
・ボーナス払い無し・元利均等返済
※ 当初5年間 1.00%金利引下げ(長期優良住宅+ZEH)有り
▷ 毎月返済額 当初5年間 17.6万円(6年目以降18.9万円)
▷ 総返済負担率 29.4%
・(返済月額17.6万円+家賃3.6万円)21.2万円×12=254万円)÷合計年収863万円=29.4%
・年収に対する返済負担率は無理のないように30%以内に収めましょう。
マイカーローン
- マイカーローンに限らず、分割返済をしている借入の返済月額は、残したままだと、返済負担率に計上され、借入限度額に大きな影響を与えます。収入合算者の借入も同様に計上されますので注意が必要です。分割払いにしている理由から、一括返済をするのも容易なことではないことが多いですが、全体の資金計画の中で手持ち資金の見直しと割り振りは、優先順位をつけて対応していきましょう。今回は父親が土地代の折半分として考えていた資金をマイカーローンの返済原資に振り替えたことで、全体の計画を大きく改善することができました。
住宅資金の贈与
- 父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、次の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となります。
- 贈与を受けた人ごとに省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までの住宅取得等資金の贈与が非課税となります。
継続する家賃・借入負担
- よく見落とされるポイントですが、借上社宅の自己負担分は継続して支出されるため、返済負担率に計上されます。また、自己所有の投資用物件などで、賃貸予定または賃貸中の住宅に係る借入金も返済負担率の計算に含まれます。
50代・セカンドハウス向け住宅ローンの場合のアドバイス
- 住宅ローンを利用できる年齢的なリミットが近づいています。本件の場合は借り上げ社宅の恩恵を受けていますが、このまま賃貸を続けることは、定年後の居住リスクを先送りしているとも言えます。
- セカンドハウスとして、所得が比較的高い今のうちに住宅ローンを利用し、老後の生活に備えておく方法も有効です。
- 建築住宅に住民票を移せない場合、住宅ローン控除は対象外となります。
重要事項説明書の作成は必須
- 今回は隣地同士の売買契約で、個人間での売買に近いものですが、住宅ローンの利用にあたっては、必ず重要事項説明書を作成する必要があります。重要事項説明書は、売買契約に伴って宅地建物取引の仲介業者が作成する書面で、ローン審査にあたって物件内容を確認するため必須のものとなります。
セカンドハウス(二地域居住)のメリット
- フラット35のセカンドハウスローンは、国土交通省が推進する二地域居住対策と密接に連動しています。主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点を設ける暮らし方を推進することによって、地方への人の流れを生み、地域の担い手の確保や消費等の需要創出、新たなビジネスや雇用創出、関係人口の創出・拡大等に寄与し、東京一極集中の是正や地方創生を推進しています。
ベストな住宅ローン組成のために、まずは事前審査から
- 借入限度や返済可能金額、返済期間の組み合わせは、それぞれのご事情によってベストな選択が異なります。住宅取得や借入の予定をまだ先のことと考えている方でも、現状の年齢・収入・家族環境等から実際どの程度借入ができて、どの程度の返済額になるのか、事前審査をしてみましょう。特に健康面に関しては先送りするほど不利になりがちです。