一般的に40代は、収入が安定している反面、子供の教育資金負担がピークを迎え、親の介護のことなども気にしなければならない時期。事業経営者の場合は定年が無いとはいえ、将来に向けた資産形成も並行して行いたいところです。
住宅ローンを利用する上では、完済年齢を80才と規定していることが多いので、最長35年のローンを組むためには44才までに申し込む必要があります。
今回ご紹介するケースも、個人事業主としてレストランを経営されてる44才のオーナー。奥様も従事されています。現在は夫の実家に同居していますが、子供二人を抱えて手狭になったため、実家の敷地を分筆して、隣接した一戸建てを計画しました。
ご相談のポイントは、収入合算が可能か、借入限度、土地の使用貸借のこと等でした。また、夫婦が両方で加入できる団信にも強い関心をお持ちでした。
- 「35年返済」を申し込むのが可能なのは44才まで。以降、年齢が増えると借入可能金額が短くなり、月額返済額も増加します。
- 年令が上がるにつれ、健康上の理由から団信に加入できない可能性が増えてきます。特に夫婦お二人での加入を希望する場合は、双方が健康なうちにローンの開始をする方が安心です。(フラット35は団信に加入しない場合でも申し込みが可能です)
- 事業用と個人用のバランスシートを明確に区分し、特に運転資金の借り入れなどは事業用であることが分かるような資料を準備します。審査上の収入金額は、確定申告書上の「所得金額」であることにも注意が必要です。
40代・個人事業主 の例
個人事業主の方は、所得税法上の給料という区分がないため、収入面での管理が難しく、確定申告は税理士さん任せというケースが多々あります。資産・負債もすべて本人名義ではありますが、住宅ローンの申し込みに当たっては、個人のものと事業用のものとを明確に区分する必要があります。
フラット35の場合、事業用の負債は個人の負債と区分して審査されるので、返済比率を計算する上で不利にならないように管理しておきましょう。
ご相談者の例

◗ 夫の年収: 480万円
個人事業主の場合、年収は青色申告特別控除(65万円)を差し引いた後の、税務署が発行する所得税納税証明書に記載されている所得の額で審査されます。事前審査では青色申告書の写しのみの提出でも審査可能です。
◗ 妻の年収:86万円
事業専従者の所得は給与収入として取り扱います。市区町村が発行する「住民税納税証明書(支払給与の総額の記載のあるもの)」に表示された収入金額を収入とみます。事前審査では源泉徴収票のみの写しでも審査可能です。
◗ 貯蓄:250万円
退職金代わりになるように、小規模企業共済の掛け金を払っているほか、国民年金に上乗せして国民年金基金にも加入するなど、税制優遇のあるものや節税にも意識していますが、手元で自由になるのは250万円ほど。住宅取得の頭金として使いきってしまうわけにはいきません。学資保険を大事な資産として継続していくことは言うまでもありません。
◗ 土地:使用貸借
夫の父が、隣接する余剰地を「貸して」くれることになっています。賃貸料のない「使用貸借」となります。法的に1筆の土地に住宅を2件建てることはできませんので、父の住む家の部分と分筆し、ローンの抵当権は分筆した部分だけに設定されるようにしました。
ご提案シミュレーション
ご夫婦での希望は、35年ローンを借りられるのがラストチャンスであること、夫婦二人とも健康なのでペアで団信に加入したいこと、貯蓄を取り崩すことなくフルローンで借りたいことなどでした。ただし、それによる金利のアップが非常に気になるようです。そこで、それぞれの希望を取り入れた場の返済額を比較してみました。
▷ 借入額: 3,350万円
・ ご夫婦で収入合算:奥様が連帯債務者
▷ ローンの種類: フラット35 (35年返済)・元利均等
▷ 金利優遇: 当初5年間 年1.0%引き下げ(4ポイント)
当初 5年間 1.11% (当初返済月額 9.7万円)
以降30年間 2.11% (以降返済月額 11.1万円)
※当初5年の金利優遇があるため、優遇期間が無い場合と比べて6年目以降の返済額は減少します。
・ フラット35S-A 省エネ住宅 (2ポイント)
・ 子育てプラス (子供二人・ 2ポイント)
▷ 融資率 100% 頭金無し
▷ 団信 デュエット(ペア連生団信)
・デュエットに加入した場合、夫婦のどちらか片方に万が一のことがあった場合、残債全額を0円にすることができます。夫一人だけが団信に加入する場合と比べて、金利は若干アップするものの、実額で0.3万円の違いしかないということで、デュエットを選びたいということになりました。夫婦ともに健康ならばこその選択です。
▷ 土地 隣接する父親名義の土地を分筆し使用貸借
・住宅ローンを組むにあたって、土地の名義は本人でないとダメでは?と思っている方が多いですが、親が所有する土地を借りて建築することが可能です。生前贈与で名義変更をした場合、贈与税や登録免許税などの負担が大きくなるので、いずれ相続される土地であれば、当面は使用貸借の形で建築した方が賢明と言えます。
事業用借入を区分できるメリット
・住宅ローンの審査では一般的に、収入に対する今回の住宅ローンとそれ以外の借入を合わせた年間返済額の割合(総返済負担率)を計算し、基準以上の負担となる場合は審査NGとなってしまいます。
ただし、フラット35の場合は、事業用の借り入れであることを確認できるものについては、返済比率に含まれません。例えば、本人名義の車両のローンであっても、事業用として使用し、車両の簿価も減価償却しているものであれば、事業用の借入として認められ、住宅ローン審査に関わる返済比率から除いて計算されます。
今回の場合も、店舗改装時の事業性借入がありましたが、借入申込時の書類と青色申告の減価償却明細から、ローン審査からは除外することができました。
金利〈%〉ではなく、月額返済額〈円〉で判断する重要性
・今回、ローン借入に向けて、自己資金有り(借入額9割以下)・無し(借入額9割超)、団信の有無・種類による金利の違いと返済月額を比較検討しました。金利が安いことに越したことは無いのですが、その代償として親から頭金を借りるとか、代わりとなる生命保険に加入する等を考えると、相対的には多少の月額負担が増えても、100%借入し、保険も夫婦連生団信に加入した方が負担が少ないのでは、という結論になりました。
・このように、金利が高い安いだけではなく、毎月の返済額で判断するのも一つの判断基準です。金利の差で影響があるのは利息支払部分だけで、仮に金利部分が1.0%が2.0%になったとしても、月額返済額が倍になるわけではありません。